がん治療の実際(前立腺がん編)

当クリニックでの放射線治療の実際を画像・イラストを使用しご紹介致します。
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前立腺がん

前立腺がん

「前立腺がんは手術しないで適切な放射線治療」 これが21世紀の王道です。

生活様式の欧米化にともない、日本人に前立腺がんの発生がとても増えました。
マスコミの報道もさかんに行われています。そして、残念ながら、当面は減少することは難しいと思います。

けれども、前立腺がんは「おとなしいがん」であることが多く、治療しなくてよいものも少なくはありません。
また、治療を要する場合でも、有効かつ安全な身体にやさしい治療法を選択することが可能なのです。
詳しくは私が執筆した 「明るいがん治療」 や 「読売新聞の連載コラム」 を参照してください。

以前は、前立腺がんの治療といえば、手術が主体でした。早期がんなら手術でもそれなりに治ります。
しかし、尿失禁やインポテンツなどの嫌な副作用が多く、完治した患者さんにとってさえ、あまり満足度の高い治療とは言えませんでした。
また、多少とも進行した前立腺がんでは、手術だけでは完治率が低いので、放射線治療やホルモン療法の併用が一般的です。
前立腺がんの特徴として、放射線治療やホルモン療法がとても有効だからです。

最近はわが国でも、前立腺がんの治療方法が大きく変化しました。
手術しないで、前立腺がんを完治させる患者さんが増えているのです。
もともと、放射線がとても良く効くので、その利点を最大限に利用して、前立腺がんを放射線治療で完治させる。
これが、近年の主流になってきています。
また、がんの進行度に合わせてホルモン療法も併用されることがあります。

ただ、日本には放射線治療の専門医や専門技師が十分にはいません。
そのため、病院によって治療のレベル格差が大きいことが指摘されています。
一方で、放射線の治療装置はとても高額ですが、お金さえ出せば、どの病院でも購入できます。
そして、残念なことに、多くの場合に、巨額な税金を使って安易に購入され、全国に広く配置されています。
けれども、その装置を使いこなせるような専門家が治療に従事しているのかどうか、この点が特に心配されるのです。

最近も驚いたのですが、前立腺は身体の中心部にありますから、できるだけ高いエネルギーの放射線で治療すべきなのですが、中くらいのエネルギーしか出せない装置が、前立腺がん治療の決め手であるような報道がなされていました。
しかし、まともな放射線治療医であれば、前立腺がんを治療するのなら、10メガ・ボルト以上のエネルギーが、それ以下のエネルギーよりも、ずっと適切であることを知っています。
低いエネルギーでの治療には何の利点もありません。

また、三次元方向から効率よく放射線を照射することが大切であり、それによって前立腺がんの治療成績が向上したのですが、最近では、その構造上、二次元の照射しかできない装置が、なぜだか最新の治療装置として宣伝されています。
しかも、一部の放射線治療医がその宣伝にかかわっていました。その医師は、本当に前立腺がんの患者さんの診療をしているのかどうか、本当に疑問に思ってしまいました。

これら最近の困った現象は、いままで放射線治療を行っていなかったのに、急に時流に乗って放射線治療を始めた病院に多いようです。どこが良い治療をしており、どこが怪しいのかは個々に調べてみないと分からない問題ですから、個々の患者さんが自分で調べなければならないでしょう。
これから治療を受けようという方は、その施設の実績(患者数、5年生存率、10年生存率、再発率、直腸障害発生率)を確認する必要があると思います。新しくできた施設で、まだ治療担当者が患者さんに示せる実績がない場合には、治療に使う放射線のエネルギーの強さ、どのようにして三次元方向から照射するのか、日々の位置合わせはどうするのか、何グレイまで照射するのか、などを確認して後悔しない選択をしてほしいものです。

次のCT写真は、私たちが過去10数年間にわたって治療してきた前立腺がんの治療前と治療後の例です。
大きな前立腺がんが著明に縮小しているのが、よくわかると思います。

ケース1.※↓左側が治療前  ↓右側が治療後
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ケース2.※↓左側が治療前  ↓右側が治療後
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私たちは、過去10数年間で、200名近くの前立腺がんを手術せずに放射線で治してきましたが問題となる副作用の発生は1名だけでした。
そして、その1名の副作用も時間とともに消失しました。また、治療の後、前立腺そのものにがんが再発した患者さんも、わずか1名だけでした。この再発の少なさは、従来の手術の成績よりかなり良好です。
ここまでの成績が出るのですから、上手に放射線治療できるなら、もう前立腺がんに手術の出番はないと考えています。

では次に、私たちの治療がなぜ好成績をもたらしたのか、簡単に説明しましょう。

次のCT画像(ケース3)は、同一の患者さんの、同一の部位を、別の日に撮影したものです。
一般の患者さんには、前立腺の位置が日によって大きく移動していることなど、想像しにくいと思います。
実際、医療関係者でさえ、私たちが学会発表するまで、知らない人がほとんどでした。
しかし、直腸にたまったガスの量や膀胱にたまった尿の量などによって、前立腺という臓器は、驚くほど動いているのです。

ケース3

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この動きを、毎回正確に把握して精密な位置合わせをしてきたことが、私たちの好成績の最大のポイントだと思います。
そして、この正確な位置合わせの技術こそ、私たちが、フォーカル・ユニットを用いて独自に開発したものなのです。
日々の治療における繊細な位置合わせ。
これは、とても地味な作業ですが、数週間にわたって目に見えない地味な作業を積み重ねた結果、好成績がえられたのです。

最近では、この技術を利用しようと、放射線治療装置の横に付属して、簡易型のCT(コーン・ビーム CTとか、メガ・ボルト CTとも呼ばれます)を設置する施設が増えてきました。
けれども、簡易型のCTだと、どうしても画像が荒くなってしまうので、前立腺がはっきりとは見えません。結局、正確な位置合わせは難しいのです。
最近は、CTで位置を合わせています、という病院が増えていますが、それだけでは安心できないかもしれません。

本当に正確な位置合わせのためには、診断用のCTを専門家が使いこなす必要があります。
ご自分が治療を受ける施設を決定される際には、日々の位置合わせにつかうCTが、画像診断用のCTなのか、簡易型CT(コーン・ビーム CTやメガ・ボルト CT)なのか。これを確認されることも是非お勧めしたいと思います。もちろんCTなしで治療する施設などN.G.です。日々の正確な位置合わせこそが、良質な放射線治療の第一条件だからです。

また最近、IMRT(強度変調放射線治療)という言葉が一人歩きしています。
そして、私たちが行っている治療がIMRTの仲間だと勘違いしている方がいて困っています。IMRTといっても、その中味は施設によって全くといっていいほど異なっているのですが、私たちはそもそも、IMRTという治療行為を良しとしていません。
それは、IMRTが放射線治療をコンピュータに丸投げする行為に思えるからです。

たとえば、旅客用飛行機には必ず自動操縦装置がついています。コンピュータが高度や速度や方向を感知しながら自動で飛んでくれるわけです。長時間の飛行の際、パイロットが神経を休めるために、とても重要だと思います。しかし、それを離着陸のときや、天候不良の不安定飛行のときに使うことは、まずありえないでしょう。そんな飛行機には誰も乗りたくないはずです。これは、コンピュータに人生を任せることなどできない、経験の豊富なパイロットにしっかり操縦して欲しいという当たり前の気持ちです。

IMRT。
それは、コンピュータのシミュレーション・ゲームとそっくりの行為に見えてしまいます。
離着陸する空港と機体のデータを入力すれば、あとは風向きなどの天候のデータをコンピュータが自動で判断して離着陸する。あるいは、思いもよらぬ悪天候も、すべてコンピュータが一瞬にして把握し、最適な飛行を続ける。その実力は優秀なパイロットに優る。そんなバカなことを現実に期待できるでしょうか。
どんなに進歩したところでコンピュータはコンピュータ、入力済みの単純計算なら誰よりも速いですが、入力されていない新しい問題の前ではただの箱です。
そして、生きている人間の身体もそこに患った病気も、まったく同じものなどありません。
すべてが新しい問題だと思うのです。

こう冷静に考えてみると怖くて、IMRTの世界に近づく気には、とてもなれません。
残念ながら、現在の放射線治療の世界では、IMRTが最大勢力になりつつあります。
しかし、その背景にはIMRTが欧米の資本主義社会にとって、もっとも都合の良い治療方法であるという現実も見え隠れしています。医学は民主主義ではありませんので、多数決などで答えが出るはずはありません。大勢が進む道だから、正しい道だと考えるのは楽天的すぎるでしょう。技術とアイデアの日本人が、なぜそれを大切にしなくなったのか。コンピュータは使うもので、使われるものではありません。

実際,私たちが開発した肺がんのピンポイント照射は、それまで放射線では完治しないと考えられていた早期肺がんを完治可能に変えました。
そして、時間の流れだけでいえば、IMRTにも、ピンポイント治療と同じ10数年の歴史があります。
しかし、IMRTの登場によって、それまで治らなかったのに、完治可能になったという病気はひとつもありません。昔から治っていた病気が昔と同程度に治っているだけです。

そして、さらに心配なのは、IMRTが本当に三次元照射をしているのかどうかです。先ほども書きましたが、二次元照射しかできない装置が,IMRTの専用装置といわれて前立腺がんの治療に使われ始めています。前立腺がんの放射線治療成績は、三次元照射の技術を駆使して、75グレイ以上の照射が安全に行えるようになったから、飛躍的に向上したのです。
二次元照射の時代には60グレイ程度の照射しか安全にできませんでした。
装置が新しくなれば、本当に二次元照射でも安全に75グレイ以上照射できるのでしょうか。
これには、私はかなり疑問というか、否定的です。
ここにも、コンピュータのシミュレーション・ゲームのまやかしがある気がするのです。

前立腺がんの放射線治療後の副作用の発生は、最低でも2年以上経過をみていかないと判断できません。その施設が本当に完治を目指して75グレイ以上の照射を日常的に行っているのかどうか。実際に行っているとしたら、何年前から行っているのか。そして、その副作用の発生率はどれほどか。これらは治療を受ける前に、是非確認しておくべき大事なポイントです。
現代の社会においても、「自分の身は自分で守る」という原則は変らないのだろうと思います。
ですから、前立腺がんの患者さんは以上のようなことに十分に気をつけてください。

そして繰り返しになりますが、

「前立腺がんは手術しないで適切な放射線治療」 これは21世紀の真実です。

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