積極財政vs緊縮財政(プライマリーバランス黒字化)

積極財政とは、国の予算の財源を税金だけに頼らず、国債も発行してお金を増やし、皆が豊かに安心して暮らせる社会を目指す政策です。やり過ぎるとインフレや円安の心配がありますのでその点には注意が必要です。これに対して緊縮財政とは、できるだけ国債を発行しないで税金主体で予算を組もうとする政策です。基本的に増税とセットでないと社会保障などの必要な予算が削られることになります。この緊縮財政の極めつけが「プライマリーバランスの黒字化」と呼ばれるものです。

 

財務省が、このプライマリーバランスの黒字化という目標を掲げて、それに自民や維新などの多くの政治家が賛同しているため、この30年間、日本は貧困が広がり破滅に向かっています。一億総中流社会といわれた高度経済成長期を知る世代にとって日本の凋落ぶりは悪夢、信じられないレベルで、1989年には、世界企業のトップ10に日本企業は7社、トップ5032社入っていましたが、現在はトップ501社も入っていません。  貯蓄ゼロの貧困世帯もすでに国民の3-4割に及んでいます。

 

では、なぜプライマリーバランスの黒字化が間違いなのか。なぜ政府は国債を発行して通貨を増やす積極財政の方針でなければならないのか。小学生にも理解してもらえるように説明したいと思います。

 

原点に返って一から考え直してみましょう。

 

日本に円が流通しているのは政府が通貨発行したからです。国民は、どんなに価値のある不動産や貴金属や金融商品を持っていても、買い取ってもらわない限り1円のお金も手にできません。高価なものを持たない大半の国民は、主に労働の対価として給与などの形で日本円を手にしています。

 

ここで、ある年に全国民の一年間の労働に対する対価として、政府が初めて1億円の日本円を発行し国民に分配したとします。海外との貿易はとりあえず一旦無視して話を進めます。日本国内のお金の総額は1億円、次に政府が通貨発行するまで日本円は増えも減りもしません。この1億円は労働の対価として国民に分配されるわけですが、国民の労働は様々なので、たくさんもらえる人もいれば、あまりもらえない人もいます。

 

政府は、たくさんもらえた人からはそれなりに徴税できますが、それでも全額徴税したらその人は破産です。だから、仮に最高税率50%としましょう。あまり日本円を手にできなかった労働者からは少ししか徴税できません。仮に5%の税率としましょう。国民全員が大金持ちで全員の税率が50%なら税収は5000万円になりますが、現実からはほど遠いですね。全員が貧しくて税率5%なら国の一年間の税収はわずか500万円です。こちらの方がより現実的かもしれません。

 

つまり、政府が一年間に発行した1億円に対してその年の税収は多くて5000万円、少なければ500万円です。この税収だけで翌年の国の予算を組み立てようという考え方がプライマリーバランスの黒字化です。誰がどう考えても絶対にあり得ないですね。翌年も同じ労働に対して同じ報酬を国民に分配するなら、最低でも5000万円、多ければ9500万円の新たな通貨発行が必要です。

 

これは小学校の算数レベルで自明です。新たな国債を発行せずに税収だけで翌年の予算を賄えというのがプライマリーバランスの黒字化。まさに「脳みそが沸騰した人」の発想ですね。でも、それが財務省や多くの政治家の目標らしいのです。国民をイジメ、日本を破滅させたいのでしょうか。国民生活を維持するのに、国は通貨を発行する義務と責任があるのです。

 

現実の経済では海外との貿易があり、日本企業の業績が良ければ海外からお金が入ります。貿易黒字が大きければ税収も増えます。もし、日本がどこかの産油国のように地下資源だけで湯水のように外貨が稼げるなら、国債を発行しなくても経済が廻る可能性はありますが、残念ながら日本はそんな国ではありません。情けないことに日本の貿易収支は近年すでに赤字です。

 

このように、プライマリーバランス黒字化は、現実には絶対にありえない目標なので、毎年の国の予算は税収に加え、国債発行で維持されています。作為的に赤字国債とよばれていますが、他国に借金しているわけではありませんし、将来にわたって誰かに返済する義務もありません。国債の60年償還ルールという出鱈目を一部の経済学者が垂れ流していますが、そんなことをまともに実行している国は、世界のどこにもありません。緊縮財政を目指す財務省にへつらう御用学者のデマです。

 

ただし、短期間に過度の通貨発行をした場合、他国とのバランスで円安が進む可能性があります。これには円・ドル、円・ユーロなど為替に注意し調整する必要があります。また国内の商品生産能力を超えて通貨を発行するとインフレが進むので、これにも注意が必要です。しかし、30年前までの高度経済成長期、毎年インフレが続き不動産を含めてすべての商品の値段は上がり続けていました。狂乱物価という言葉がよく使われていましたが、国民の収入も増え続けて、日本経済は順調でした。あの狂乱物価の時代でさえハイパーインフレではないのです。

 

ただバブルを発生させてしまったのは大失敗で、財務を扱う官僚と政治家の能力不足でした。あのときこそしっかり徴税すべきでした。企業の黒字、とりわけ不動産や株式の売買利益に対して重く課税すべきでしたし、法人税を引き上げて累進税化し、所得税も中間層の累進性を高めるべきでした。間違いなくバブルを抑えることができただろうと思います。加熱し過ぎた経済には金利調整といった間接的な方法ではなく、徴税というストレートな方法で冷まして、穏やかなインフレを続けるのが理想的な経済政策なのです。

 

日本国民は戦後の焼け野原から数十年で高度経済成長を実現しました。もともとまじめな国民性で、それをリードする一流企業のトップが理念と理想と矜持を持った創業社長の集まりだったからです。企業の収益を従業員に還元し、設備投資もして社会に貢献していました。あの時代は世界中から疎まれるほどでした。近年の財界は、大半が雇われ社長で株主の機嫌を取るため株価だけを気にして、従業員への還元や投資もしないで、チャレンジ精神のない経営になっています。政治家は票と献金をくれる大企業には減税し、その穴埋めに消費税を増税。官僚は矜持を捨てて出世と天下りを求めて、政府に忖度ばかりなので恐ろしいほどの国の凋落ぶりです。

 

アベノミクスは部分的には積極財政でした。しかし、国債を使って発行した大量のお金を国民には届けなかったので、景気は回復せずデフレは解消しませんでした。さらに、消費増税と法人減税で自分に票と献金をくれる大企業だけを潤わせました。結果として、上場企業の株価は上昇しましたが、内部留保が進んだだけで経済は成長しませんでした。日本のデフレはもう30年も続いており、近年の輸入物価の値上がりでスタグフレーションのような最悪の経済状態を迎えてしまいました。

GDPの主体は国内での国民の消費ですから、消費意欲にブレーキをかける消費税が経済成長を止める最悪の政策です。消費税を廃止し、新たに発行したお金を国民全体に行き渡らせれば、将来への不安が減り国民の消費が増えます。国民の消費が増えれば国内企業の利益が増すので企業も投資できます。景気が好循環になり、経済が安定して国が発展します。

 

現在の日本、50年経って老朽化した社会インフラの再構築、未来を担う若者への教育投資(教育無償化)、子供一人ひとりへの大胆な子育て支援、グリーンエネルギー転換への設備投資など、国債を用いた積極財政で実現できて、国民が真っ当に潤う政策はいくらでもあります。そして、それは少子化対策としても極めて有効です。すべて政府がその気になれば可能なことばかりですが、政府は財務省の指示で緊縮財政を続け、あげく庶民に株式投資などを勧め始めました。これは本当に下品な博打政策で、多くの人は失敗して貧しくなります。

 

日本企業の99%は中小零細で、労働者の7割がそこで働いています。緊縮財政のままではこの人たちの生活が破綻します。30年も国を凋落させた緊縮財政が続いてよいわけがありません。政治を変えて官僚機構に理性と矜持を取り戻す。私には、なぜ財務省が緊縮財政を目指すのか、全く理解できないのですが、宮澤喜一氏も安倍晋三氏も存命中に「総理大臣より財務省の方が権限が強い」という言葉を残しています。おそらく何かを握られているので、ほとんどの政治家は財務省に逆らえないのでしょう。その点、4年前に山本太郎さんが立ち上げた「れいわ新選組」は、はっきりと積極財政を目指す唯一の国政政党です。国会議員はまだ8人ですが、バックに経団連、連合、宗教法人などの大きな利権集団がない純粋な市民政党です。しがらみがないので、すべての国民のための政治を目指せるのです。

 

私は「れいわ新選組」が政権中枢になるような政治改革・政権交代を起こさないと、日本の凋落は止められないと思います。YouTubeで「れいわ新選組」の街頭演説がたくさん視聴できます。是非ご覧になって冷静に考えてみてください。積極財政・消費税廃止が「れいわ新選組」の原点です。

 

                                               2023年5月   植松 稔