2015年夏・民主主義は未完のプロジェクト

 2015年の夏は私にとって特別な夏でした。多分、日本中に同じような気持ちを持った方が大勢おられる気がします。若い人たちに教えられて、とても大事なことを感じ、考えさせられた夏でした。

 私が生まれたとき日本はすでに平和な国でした。まだ貧しかったですが、戦争に巻き込まれる心配やテロに狙われる恐れなど感じたことはありませんでした、(つい最近までは)。

 戦後の昭和の時代、自民党が長らく政権与党で霞ヶ関の官僚とともに日本を運営していました。高度経済成長期の公害など地域的には深刻な問題がありましたが、多くの国民の生命や財産はおおむね安全に保たれていました。一億総中流意識といわれ、とんでもない贅沢も生命にかかわる貧困も目につかない時代が長く続きました。

 60年安保のとき私は幼稚園児、何も覚えていません。70年安保のときは中学生でした。なぜベトナムで戦争が起きたのか理解できませんでしたが、自衛隊が参戦するわけでもなく、ニューヨークから世界に拡散した反戦ミュージカル・ヘアーに興味を持ったくらいで、そのまま私は政治のことなど何も考えずに社会人になりました。

 政治家の汚職や官僚の天下り、政官業の構造的癒着など、汚れた社会問題は常に指摘されていましたが、日本全体が経済成長を続けているうちは市民生活への影響は少なかったように感じていました。

 最初に日本の政治がおかしいと感じたのは、80年代バブルが崩壊してからです。少し前まで世界中から「エコノミックアニマル」と呼ばれるほど経済的に繁栄していた日本の富が、バブル崩壊後にほとんどアメリカに移行したことが判りました。評論家は、経済戦争に負けたと結論づけましたが、バブルという間違った経済状況に対して、当時の大蔵省や政治家は本当に何も考えず、何もできなかったのかという不信感、不快感は大きかったです。

 その後の日本は、経済的に発展する要素なく今日に至っています。10年ほど前も現在も大企業は景気がよいようですが、経済発展ではありません。国の赤字は増える一方で、国民生活も低迷を続けています。アベノミクスが成功していると考えている人は、私の周りには一人もいません。そこへ来て、このでたらめな安保法制です。

 昨年の夏、長崎、広島、沖縄など太平洋戦争で特にひどい被害にあわれた地域の方々から、集団的自衛権の行使容認など到底許されないという声が上がったものの、それが広がりを見せませんでした。その上、12月に意味不明な総選挙があり、なんと自民党が勝ってしまうという信じられない事態に陥りました。正直、今年の春まで、どこかまともな国を探して移住しようかと真剣に考えていました。日本は民主主義どころか独立国でさえなかったのか、と本当に情けなかったのです。

 けれどもこの夏を契機に、今は日本の未来に希望を持つことができるようになりました。でたらめな政治はやめろという、若者、ママさん、学者、中年、老年の声が日本中に広がり、民主主義や平和と自由を切望する人たちが大勢いることがわかったからです。特に知識人や教養のある人たちがこぞって意思表示をはじめました。

 SEALDsのおかげで、民主主義は未完のプロジェクトであり、国民が理想を追い続けながら改善していくものだと、心から合点がいきました。国民は選挙に行き、あとは政治家に任せるというのでは、民主主義国家の国民のあり方として落第点である、ということを初めて勉強させてもらいました。国の政治に絶望している暇があったら、主権者の一人である自分が民主主義のために何かしらの意思表示をしなければいけなかったのですね。

 これからも時間が許せば正しいと思うデモに参加し続けようと思います。こんなつたない文章を書いているのも、読んでくださる方がいれば何かしら伝わるかもしれないという気持ちからで、皆が忘れないことが肝要です。食事やお酒のお店に行ったら、知らない人とでもできるだけ政治のことや社会のことを話そうと努力しています。(嫌がられることも結構ありますが。)

 まがりなりにも昨年の12月の総選挙の結果なので、今すぐに日本の政権を代えることは不可能ですが、皆が諦めなければ大丈夫。選挙の結果は、必ず選挙で変更可能です。愚かな過ちからしっかり学べば、世界に誇れる民主主義と平和主義を日本人はきっと創造していけると確信しています。

 核兵器の廃絶も戦争のない平和な世界の実現も、日本こそが世界の先頭に立つべきテーマであり、日本以外の国には多分その役割は難しいような気がします。もちろん米国に任せていたのでは、世界の平和は永遠に訪れません。どこまでもどこまでも愚直に諦めず、「子供」の心で「大人たち」が理想を目指すことができたときに初めて可能な話だと思います。

 正しい発言をしている政治家は誰か、それを正しく伝えているジャーナリストやキャスターは誰か。政権に汚染されていないテレビ、新聞、雑誌はどこか。今明白に見えている現状から判断は容易です。だめなマスコミは無視しましょう。皆が見なければ良いのです。
最も大事なのは選挙での正しい投票です。平気で嘘をつく政治家や、それに対して何も発言しない政治家は退場あるのみです。

 2015年夏、私は知性的で行動力のある若い人たちに本当に感謝しています。民主主義って何なのか、初めて学びました。

                         植松 稔