放射線治療による皮膚炎などについて

最近は乳がんの患者さんが以前にも増して多くなり、放射線治療後の皮膚のケアなどについて、いろいろとご心配になっておられるというお話を伺いましたので、それについて基本的なことをお伝えしておこうと思います。

まず、私たちが行っている乳がんの放射線治療は、どの方に対しても基本的に2つの要素から成立しています。

ひとつは、ある程度広い範囲にあてる放射線治療です。
これは、目に見えていない部位にも多少は病気が隠れていることがある、という過去の経験に基づくものであり、同時に目に見える大きさのがんを小さくすることもできます。

もうひとつは、ピンポイントでしっかりと放射線をあてる治療でこれは外科手術の代わりに行っている治療です。

ほぼ全員がこの両方の治療を受けているわけですが、この両方を一緒にして考えてしまうと理解し難くなってしまいます。この2つは、はっきりと分けて考える必要があります。

まず、広い範囲にあてる放射線治療についてです。

人間の身体のほとんどの臓器は常に新陳代謝をしています。
もちろん皮膚や粘膜も。
通常、古い皮膚が垢になって脱落する分と、新しい皮膚が作られ補われる分とのバランスが釣り合っているため、人間の皮膚は常に同じような状態を保っているように見えます。しかし、実際はいつも顕微鏡レベルでは新陳代謝が続いています。

放射線治療を広い範囲に行った場合、古い皮膚が脱落するペースにはあまり変化はないのですが、新しい皮膚が再生してくることを少し邪魔してしまうため、放射線治療により皮膚がただれたような状態になってしまう方が時々でてきます。抗癌剤を使ったりすると、その程度は強まります。

元々、日焼けに強い人の場合には、このような変化は特に目立ったものにはなりませんが、皮膚が弱く、しかも新陳代謝による皮膚の再生能力が低い場合には、比較的強い皮膚炎がしばらく続くこともあります。

皮膚の新陳代謝を亢進させるのに有効な方法は、現在確立されているものとしては高圧酸素療法しかありません。私たちが皮膚の状態を診て、皮膚炎が強いと思った場合には、鹿児島滞在中に高圧酸素療法をお勧めして実際に受けている方もいらっしゃいます。

もう1つ大切な要素は、しっかりと栄養を摂ることです。新陳代謝のためには良質なたんぱく質を十分に摂ることが必要です。細胞のほとんどはたんぱく質でできていますので、必要な材料であるたんぱく質を摂らないと、新しい皮膚の再生が遅れます。

もう1つ、皮膚の再生を遅らせてしまう要素としては、細菌感染があります。
人間の皮膚の表面には常在細菌が多数住んでいます。通常の健康な状態の皮膚には特に問題を起こすことはありませんが、放射線による日焼けで皮膚の抵抗力が落ちていると、この常在細菌が皮膚に炎症を起こし悪影響をもたらします。ですから、皮膚を優しく清潔に洗うこと、また必要に応じて消毒をすること、この2つがとても重要になります。お風呂の湯ぶねは細菌だらけなので弱っている皮膚にはとても有害です。また、汚い洗濯機で洗った下着を身に着けるのは皮膚に雑菌を塗るようなものです。どちらも要注意です。

皮膚を清潔に保って、良質のたんぱく質を十分に含んだ栄養を摂っていれば、生まれつき誰の身体にも新陳代謝をする能力がしっかり備わっていますので、広い範囲にあてている放射線で受けたダメージからは必ず回復します。

ただ、新陳代謝の能力には個人差があるので、これが早い方と少し時間がかかる方がいます。いずれにしても、自分自身の身体で新陳代謝をする以外に新しい皮膚を作る方法はありません。何かしらの薬をつけたから早く治るということはありません。高圧酸素療法は、身体全体の新陳代謝を亢進させますので有効です。

もしかすると、将来iPS細胞の研究が進んで皮膚の再生を早めることができる時代がくるかもしれませんが、現在は、軟膏を塗ったり注射をしても再生を早めることはできません。清潔を保つ以上の効果はありません。

これまで、皮膚科のお医者さんにかかり、通常の火傷につけるような軟膏をつけたために治るのが遅くなった方を時々に経験しています。皮膚科を受診することはお勧めしません。皮膚科に行ったら治ったと言う人がたまにいるようですが、それは自然に自分の力で治るタイミングと、皮膚科を受診したタイミングがたまたま一致しているだけです。繰り返しになりますが新陳代謝を早める薬はありません。清潔と栄養と高圧酸素以外はないのです。

これが広い範囲でほぼ全員が受けている治療によって起こる皮膚炎に対しての基本的な考え方です。
次に、1人1人の受けている治療の内容が全く異なるピンポイント照射の皮膚についての注意事項です。これは本当に1人1人が全く違う治療を受けていますので、とても一律に説明をすることはできません。

オンコロジーセンターでは、1cm以下の小さな乳がんから、20cmにも及ぶ大きな乳がん、すでに皮膚を食い破って腫瘍から出血している乳がんの方まで、本当に様々な方を治療していますので、ピンポイント照射の皮膚への影響は個々に検討するしかありません。

ただ、一般論として皮膚がダメージを受けた時、それは病院でお薬をつけて治すというものではなく、皮膚の清潔を保ち栄養を摂って新陳代謝を促して治すものである。また必要に応じて高圧酸素療法を行なうと有効である、という大原則は、広範囲の放射線治療の場合と同じです。
次に、ほとんどの方がPET-CTの検査を受けながら経過観察をしていますが、それに関係しての注意点を少し解説しておきます。

放射線があたって皮膚炎が起きるように、放射線があたると肺や筋肉、脂肪などの組織にもそれなりに炎症が起きます。皮膚と違って外からは見えないのでPET-CTの検査で指摘されて初めて気がつくことが多いのです。この炎症も皮膚と同様に放射線があたった所だけに起きて、時間が経つと新陳代謝によって自然に治ります。ただ、皮膚よりも通常の新陳代謝が遅い組織や臓器なので、炎症も皮膚よりも遅れて出現してきて、遅れて治ります。

細菌やウイルスが原因の炎症ではありませんので治療は不必要です。むしろ、抗生物質を使って菌交代現象を起こしたり、ステロイドを使って訳の分からない炎症を引き起こすと重症化させてしまうので危険です。

PET-CTの検査が登場する前は、誰も気にもしていなかった自然に治る炎症で、通常は3ヶ月から半年で炎症が指摘され半年から1年で治まります。診察のときに「まったく気にしなくていい」と強調しているあれです。

ただし、皮膚の場合と同じように、清潔を保ち栄養を摂ることは大切です。肺の場合には、汚い空気を吸わないということが清潔を保つことになります。いかにもホコリの多い場所には近寄らない、できれば自宅に性能の良い空気清浄機をおく、また、しばらくぶりでエアコンをまわした場合には部屋中にカビが飛び散る可能性などを考慮してください。

 

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